働けなくなったら、お金はどうなる?
──傷病手当金と障害年金、2つの支え
公開
病気やけがで、しばらく働けなくなったら。
治療費のことは思い浮かんでも、止まった収入をどうするかまでは、なかなか考えないものです。
でも、収入が止まったときに使える公的なしくみが2つあります。
最初の1年6か月を支える「傷病手当金」と、その先を支える「障害年金」です。
どちらも、自分から申請しないと始まりません。
📖 この記事でわかること
- ・休んだ間の収入を埋める「傷病手当金」のしくみと金額
- ・1年6か月を過ぎたあとを支える「障害年金」のしくみと金額
- ・2つのつなぎ目で、気をつけること
📌 この記事が前提にしているもの
前半の傷病手当金は、会社員・公務員など、勤め先の健康保険に入っている方の話です。
自営業・フリーランスの方が入る国民健康保険には、原則としてこの給付がありません。
後半の障害年金は、どちらの方も対象になります。
金額はすべて令和8年度(2026年度)のものです。手続きの前には最新の情報をご確認ください。
長く休む人は、めずらしくありません
まず、どれくらいの人が実際に休んでいるのかを見ておきます。
協会けんぽの調査では、令和6年10月の1か月だけで 179,680件 の傷病手当金が支給されていました。
支給期間の平均は171.75日——おおよそ5.7か月です。
| 休むことになった原因 | 件数の割合 |
|---|---|
| 精神および行動の障害 うつ病など | 39.15% |
| 新生物 がんなど | 14.49% |
| 筋骨格系および結合組織の疾患 腰や関節の病気など | 8.76% |
| 循環器系の疾患 心臓や血管の病気など | 7.32% |
※ 全国健康保険協会「現金給付受給者状況調査報告(令和6年度)」より。令和6年10月の受給者を対象にした調査です。
いちばん多い原因は、けがでも大病でもなく、うつ病などの心の不調でした。
平成7年の調査では4.45%でしたが、令和6年には39.15%まで増えています。
誰にでも起こりうる出来事として、しくみを知っておく意味は大きくなっています。
最初の1年6か月を支える「傷病手当金」
勤め先の健康保険に入っている方が、業務外の病気やけがで働けなくなったとき。
給与のおおよそ3分の2にあたる金額が、健康保険から支給されます。
これが傷病手当金です。
💼 受け取るための4つの条件
- ・業務外の病気やけがの療養のための休業であること
- ・仕事に就くことができないこと
- ・連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- ・休んだ期間について給与の支払いがないこと
※ 全国健康保険協会の案内による条件です。
最初の連続3日間は「待期」と呼ばれ、支給は4日目からです。
この3日間は連続していることが条件で、途中で出勤すると数え直しになります。
1日あたり、いくら受け取れるか
支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均
÷ 30 × 3分の2
🧮 標準報酬月額の平均が30万円の場合
30万円 ÷ 30 = 1万円
1万円 × 3分の2 = 1日あたり 6,667円
30日休んだ月なら、およそ 20万円 になります。
※ 標準報酬月額は給与をもとにした金額で、手取り額とは一致しません。勤め先の健康保険に入ってから12か月たっていない方は、計算のもとになる金額の決め方が別にあります(32万円が上限の目安)。正確な金額は加入している健康保険にご確認ください。
受け取れる期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。
途中で復職した期間は数えないので、また休むことになっても残りの分を使えます。
その先を支える「障害年金」
1年6か月を過ぎても働けなかったら、次の出番は障害年金です。
名前のせいで縁遠く感じますが、現役世代のための年金でもあります。
国民年金からの障害年金を受け取っている方は、令和6年度末で222万人いました。
🩺 対象になる病気やけが
手足や目、耳などの障害だけではありません。
- ・精神の障害:うつ病などの気分の障害、統合失調症、てんかん、発達障害など
- ・内部の障害:心臓・腎臓・肝臓の病気、糖尿病、がんなど
※ 日本年金機構の案内より。障害年金の等級は、身体障害者手帳の等級とは別のものです。
障害年金は、年金と同じ2階建てです。
国民年金の方は障害基礎年金を、厚生年金の方は1級・2級ならそれに障害厚生年金を上乗せして受け取れます。
| 等級 | どんな状態か | 障害基礎年金(年額) |
|---|---|---|
| 1級 | 他人の介助を受けなければ、日常生活のことがほとんどできない | 1,059,125円 月あたり約8万8,260円 |
| 2級 | 日常生活が極めて困難で、労働によって収入を得ることができない | 847,300円 月あたり約7万600円 |
| 3級 | 労働が著しい制限を受ける | なし 厚生年金のみ・最低保障635,500円 |
※ 日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」より。金額は令和8年度・昭和31年4月2日以後に生まれた方のもので、月あたりは年額を12で割った参考値です。状態の説明は同ガイドの記載を短くまとめています。
👨👩👧 家族がいると、加算があります
- ・子2人まで:1人につき 243,800円
- ・子3人目から:1人につき 81,300円
- ・配偶者の加算:243,800円(障害厚生年金の1級・2級)
※ 対象になる子や配偶者には、年齢などの条件があります。配偶者の加算は、配偶者自身が老齢厚生年金などを受け取る間は止まるしくみです。
障害厚生年金の金額は、これまでの給与と、厚生年金に入っていた期間で決まります。
厚生年金の期間が300月(25年)に満たないときは、300月あるものとして計算されます。
若いうちに働けなくなった方が、極端に少なくならないようにするためのしくみです。
本格的なライフプラン表(キャッシュフロー表)は、FP(ファイナンシャルプランナー)に相談すると自分専用のものを作れます。日本FP協会のサイトでも相談窓口や作成ツールが公開されています。
2つは、こうつながっています
ここがいちばん分かりにくいところなので、時間の順に並べます。
働けなくなってからの流れ
① 初診日
その病気やけがで、はじめて医師の診療を受けた日。あとの手続きすべての起点です。
② 4日目から傷病手当金
連続3日の待期のあと支給が始まり、通算1年6か月まで続きます。
③ 初診日から1年6か月 = 障害認定日
この日の障害の状態で、等級に当てはまるかを判断します。
④ 請求 → 障害年金
障害認定日以降に請求すると、その翌月分から受け取れます。
⚠️ 2つの「1年6か月」は、数え始める日が違います
傷病手当金は支給が始まった日から、障害認定日は初診日から数えます。
そのため、2つがきれいにつながるとはかぎりません。
休みが長引きそうだと分かったら、早めに年金事務所に相談しておくと安心です。
知らないと取りこぼす、4つのこと
1. 保険料の未納があると、受け取れないことがあります
障害年金には、年金の保険料(国民年金・厚生年金)の納付要件があります。
大事なのは、免除の手続きをしてあれば納めた期間と同じように数えられることです。
払えない時期こそ、免除や納付猶予の申請をしておきましょう。
2. あとから重くなった場合も、請求できます
障害認定日に等級に当てはまらなくても、その後悪化したら「事後重症」として請求できます。
受け取れるのは請求日の翌月分からなので、状態が変わったら早めに動くほど受け取れる月数が増えます。
3. 5年より前の分は、受け取れなくなります
障害認定日から何年かたっていても、請求はできます。
ただし5年以上前の分は時効になるため、あきらめる前に年金事務所に相談してみてください。
4. 傷病手当金と障害年金は、調整されます
同じ病気やけがでは、両方をそのまま重ねて受け取ることはできません。
あとから傷病手当金の返納を求められる場合もあるため、障害年金を請求するときは健康保険にも伝えておきましょう。
元気なうちに、できること
最後に、今のうちにできることを3つだけ挙げておきます。
🌱 今日できる3つ
- ・年金保険料の納付状況を確かめる
ねんきん定期便やねんきんネットで、未納の月がないかを見ておきます。 - ・勤め先の制度を調べておく
健康保険組合によっては、傷病手当金に上乗せの給付がある場合があります。 - ・生活費の何か月分かを、現金で持っておく
申請から振り込みまでの期間をつなぐお金が手元にあると安心です。
3つめは、投資より先にやっておきたいことです。
あわせて家計の見直しで固定費を軽くしておくと、収入が減った時期の負担もそのまま小さくなります。
まとめ:働けなくなっても、収入はゼロになりません
📝 覚えておきたいこと
- ・勤め先の健康保険なら、給与のおおよそ3分の2が通算1年6か月
- ・その先は障害年金。2級で年847,300円、1級で年1,059,125円が基礎の部分
- ・がん・糖尿病・うつ病なども障害年金の対象になる
- ・年金の保険料は、払えないときこそ免除の手続きをしておく
- ・どちらも自分から申請しないと始まらない
働けなくなる話は、考えるのが気の重いものです。
でも支えがあると知っているだけで、備える金額は変わります。
民間の保険で埋めるのは、公的なしくみで足りない部分だけで十分です。
使うことがないまま終わるなら、それがいちばんです。
道の途中に休憩所があると知っておくだけで、歩き方は少し軽くなります。
☂️ 民間の保険をどこまで持つかは、保険、入りすぎてない?で考え方を整理しています。
📮 老後にもらえる年金額の確かめ方は、年金って、結局いくらもらえるの?をどうぞ。
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よくある質問
Q. 傷病手当金は、会社を辞めたあとも受け取れますか?
A. 条件を満たせば、退職後も受け取り続けられます。必要なのは、退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あることと、退職の時点で傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあることの2つです。実際、令和6年度の調査では、支給件数の21.52%が退職した方へのものでした。ただし退職日に出勤すると認められない場合があります。手続きの前に、加入している健康保険にご確認ください。
Q. 障害年金は、働きながらでも受け取れますか?
A. 働いていることだけを理由に、受け取れないと決まるわけではありません。障害厚生年金の3級は「労働が著しい制限を受ける」状態が対象で、働くうえでの制限が想定されています。ただし障害の程度は、診断書などをもとに一人ひとり個別に判断されます。ご自身が対象になるかは、年金事務所や街角の年金相談センターでご確認ください。
Q. 自営業・フリーランスの場合はどうなりますか?
A. 傷病手当金は健康保険の給付なので、自営業の方が入る国民健康保険には原則としてありません(自治体が独自に設けている場合を除きます)。いっぽう障害基礎年金は、国民年金に入っていれば対象です。つまり最初の1年6か月を埋めるしくみがない分、貯金や民間の保険で備える必要性は会社員より高くなります。
Q. 国民年金の保険料を免除してもらっている期間があります。障害年金に影響しますか?
A. 免除の手続きをしてある期間は、納付要件では保険料を納めた期間と同じように数えられます。影響が出るのは、手続きをしないまま放置した未納期間のほうです。払えない時期があるときは、そのままにせず免除や納付猶予の申請をしておくと、将来の障害年金の要件を守れます。
Q. 傷病手当金と障害年金は、両方まとめて受け取れますか?
A. 同じ病気やけがが原因の場合、重ねては受け取れません。障害厚生年金を受けられるようになると傷病手当金は原則支給されず、年金のほうが少ないときだけ差額が支給されます。あとから傷病手当金の返納を求められる場合もあるため、障害年金を請求するときは健康保険にも早めに伝えておくと安心です。
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