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医療費が100万円かかったら?

──「高額療養費」という、月の上限のしくみ

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雨の中、大きなオレンジ色の傘の下で寄り添う親子のコブタの貯金箱と、そのとなりで雨を受けて実をつけているお金の木のイラスト

もし大きな病気で入院や手術をして、医療費が100万円かかったら。
そう考えると、不安になる方は多いと思います。

でも、実際にあなたが払う額は、100万円でも30万円でもありません。
日本の公的医療保険には「ひと月の自己負担はここまで」という上限があるからです。
これが高額療養費(こうがくりょうようひ)制度です。

この上限を知らないままだと、起きなくていい不安を抱えたり、いらない医療保険に入りすぎたりしがちです。
まず「最悪でも月にいくらかかるか」を知ることが、備えを考える出発点になります。

📖 この記事でわかること

  • ・医療費が100万円かかっても、実際に払う金額
  • ・窓口で大金を立て替えずにすむ方法
  • ・2026年8月から上限額がどう変わるか

📌 この記事が前提にしているもの

健康保険証(マイナ保険証を含みます)を使って、保険のきく診療を受ける場合の話です。
金額や表は、厚生労働省の資料にもとづく69歳以下の方のものです。70歳以上の方は上限額が別に定められています。
高額療養費の上限額は2026年8月の診療分から変わります。この記事では、いまの金額と8月からの金額の両方を載せています。
ご自身の正確な上限額は、加入している医療保険(健康保険組合・協会けんぽ・市町村国保など)でご確認ください。

医療費には「月の上限」があります

病院の窓口で払うお金は、ふつう医療費の3割です。
医療費が100万円なら、窓口負担は30万円になります。
ここで終わりだと思われがちですが、まだ先があります。

高額療養費制度は、窓口で払った額がひと月(月の初めから終わりまで)の上限額を超えた場合に、超えた分が戻ってくるしくみです。

この上限額は、年収によって決まります。
ここでは、いちばん多い「年収約370万〜770万円」の方を例に、お金の流れを追ってみます。

医療費100万円の場合(年収約370万〜770万円の方)

🏥 まず、窓口でいったん払う(3割)

100万円 × 3割 = 30万円

💴 でも、この月の自己負担の上限は

87,430円まで
(この金額の計算方法は、次の章で説明します)

🎁 だから、あとから戻ってくる

30万円 − 87,430円 = 212,570円

※ 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」の例をもとにした、2026年7月診療分までの金額です。

100万円の医療費でも、実際の自己負担は約8.7万円ですみます。
医療費の不安は、この上限額を知っているかどうかで大きく変わります。

あなたの上限額は、年収で決まります

上限額は、所得(年収のめやす)によって5つの区分に分かれています。
まず、いま(2026年7月診療分まで)の表です。

年収のめやす ひと月の上限額
約1,160万円〜 252,600円+(医療費−842,000円)×1%
約770万〜約1,160万円 167,400円+(医療費−558,000円)×1%
約370万〜約770万円 80,100円+(医療費−267,000円)×1%
〜約370万円 57,600円
住民税非課税の方 35,400円

※ 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」より、69歳以下の方・2026年7月診療分までの上限額です。区分の正式な線引きは、会社員の方は標準報酬月額、自営業の方は住民税の計算に使う所得で決まります。

式のある区分は複雑に見えますが、考え方はシンプルです。
医療費がどれだけ大きくなっても、自己負担は「定額+はみ出た分の1%」までしか増えません。

🧮 さっきの「87,430円」は、こう出しています

年収約370万〜770万円の方の式は、80,100円+(医療費−267,000円)×1%。
医療費100万円をあてはめると:
80,100円 +(1,000,000円 − 267,000円)× 1% = 87,430円

※ 式の中の「医療費」は、3割になる前の医療費全体(10割分)を指します。

👨‍👩‍👧 家族の分と合わせられます(世帯合算)

ひとりでは上限に届かなくても、同じ医療保険に入っている家族の自己負担額を、1か月単位で合算できます。
合算して上限を超えれば、超えた分が支給されます。

※ 69歳以下の方の分は、1件あたり21,000円以上の自己負担だけが合算の対象です。合算できるのは同じ医療保険どうしなので、共働きで別々の健康保険に入っている夫婦は合算できません。

🔁 長く続くと、さらに下がります(多数回該当)

過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合。
4回目からは上限が下がり、たとえば年収約370万〜770万円の方は 44,400円 になります。
長い治療が続く方の負担が、積み重なりすぎないようにするしくみです。

2026年8月から、上限額が変わります

この上限額は、2026年8月の診療分から引き上げられます。
医療費全体の伸びに合わせて、制度を続けていくための見直しです。
変わる点は、大きく3つあります。

2026年8月からの、3つの変更

① ひと月の上限額が上がる

年収約370万〜770万円の方の例:
80,100円+(医療費−267,000円)×1% → 85,800円+(医療費−286,000円)×1%
医療費100万円なら、約8.7万円 → 約9.3万円になります。

② 「年間上限」が新しくできる

1年間の自己負担の合計に、上限額が新設されます。
年収約370万〜770万円の方は年53万円で、達したあとのその年の支払いは不要になります。

③ 多数回該当の金額は変わらない

長い治療を続けている方の負担を増やさないよう、44,400円などの金額は据え置かれます。

※ 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」より。年間上限は年収区分ごとに定められ、69歳以下では29万〜168万円です。年収約200万円未満と確認できた方には、より低い年間上限(41万円)が適用されます(払い戻しは2027年8月以降)。

さらに2027年8月には、年収の区分がいまの5段階から細かく分かれる予定です。
大きな流れとして、上限は少しずつ上がっていく方向にあります。
だからこそ「いま自分の上限がいくらか」を知っておく意味は増しています。

窓口で30万円を用意しなくてすむ方法

高額療養費は「あとから戻ってくる」しくみです。
ただ、払い戻しまでには受診した月から少なくとも3か月程度かかります。
いったん30万円を立て替えるのは、家計には大きな負担です。

そこで、窓口での支払いを最初から上限額までにする方法があります。

💳 窓口払いを上限までにする、2つの方法

  • マイナ保険証を使う
    医療機関の窓口でマイナ保険証を使えば、手続きなしで支払いが上限額までになります。
  • 限度額適用認定証を出す
    マイナ保険証を使わない場合は、加入している医療保険から事前に「限度額適用認定証」の交付を受けて、窓口で提示します。

※ 厚生労働省の案内より。どちらも間に合わなかった場合でも、あとから申請すれば上限を超えた分は戻ってきます。申請の時効は、診療を受けた月の翌月の初日から2年です。

入院や手術の予定が決まったら、まずこのどちらかを準備しておきましょう。
それでも支払いのタイミングをつなぐお金は必要なので、生活防衛資金を現金で持っておくことが、いちばんの土台になります。

必要な保障額は家族構成や働き方で変わります。保険を見直すときは、遺族年金や高額療養費など公的保険でカバーされる分を差し引いて考えるのが基本です。迷ったらFPや保険相談窓口で過不足を整理してもらいましょう。

対象にならないお金もあります

ここまで読むと、医療費の心配はほとんどないように見えます。
ただし、高額療養費の対象になるのは保険のきく診療の自己負担分だけです。
対象にならないお金を知っておくことも大切です。

⚠️ 高額療養費の対象にならないもの

  • 入院中の食費
    医療にかからない場合でも必要になる費用として、対象外です。
  • 差額ベッド代
    個室などを希望した場合の追加料金です。金額は医療機関によって大きく異なります。
  • 先進医療にかかる費用
    保険のきかない治療の技術料は、全額自己負担です。

※ 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」より。このほか、通院の交通費や日用品代なども対象外です。

民間の医療保険を考えるときは、ここが出発点になります。
保険のきく治療費の大半は、高額療養費がまかなってくれます。
民間の保険で備えるとしたら、対象外の費用と、治療が長引いたときの収入減の部分です。
考え方の全体像は保険、入りすぎてない?で整理しています。

まとめ:上限額を知っていれば、必要な備えが見えます

📝 覚えておきたいこと

  • ・医療費の自己負担には、ひと月の上限がある
  • ・医療費100万円でも、年収約370万〜770万円なら自己負担は約8.7万円(2026年8月からは約9.3万円)
  • ・マイナ保険証か限度額適用認定証で、窓口払いは最初から上限までにできる
  • ・2026年8月から上限は上がるが、年間上限が新設され、多数回該当は据え置き
  • ・食費・差額ベッド代・先進医療は対象外。民間保険で備えるならこの部分

医療費の不安は、金額が分からないことから生まれます。
最悪でも月にいくらかかるかが分かれば、蓄えの目標も、保険の要不要も、自分で判断できるようになります。

小道を一歩ずつ歩いて進んでいくコブタの貯金箱のイラスト

使わずにすむなら、それがいちばんです。
それでも、傘のありかを知っている人は、雨の日も落ち着いて歩けます。

🩺 治療が長引いて収入が止まったときの支えは、働けなくなったら、お金はどうなる?をどうぞ。
☂️ 民間の医療保険をどこまで持つかは、保険、入りすぎてない?で考え方を整理しています。

あわせて使いたいツール

よくある質問

Q. 高額療養費は、申請しないと受け取れませんか?

A. 原則として、加入している公的医療保険(健康保険組合・協会けんぽ・市町村国保など)への申請が必要です。ただし、加入先によっては「支給対象です」と知らせてくれたり、自動的に口座へ振り込んでくれたりするところもあります。また、マイナ保険証を使うか限度額適用認定証を提示すれば、窓口での支払いを最初から上限額までにできます。

Q. 払い戻しは、いつ振り込まれますか?

A. 受診した月から少なくとも3か月程度かかります。医療機関からの請求書(レセプト)が確定してから審査が行われるためです。支払いが厳しいときは、無利息の「高額医療費貸付制度」を利用できる場合があるので、加入している医療保険に相談してみてください。

Q. 過去の医療費も、さかのぼって申請できますか?

A. できます。高額療養費の支給を受ける権利の時効は、診療を受けた月の翌月の初日から2年です。この2年以内であれば、さかのぼって支給申請ができます。心当たりのある月の領収書が残っていたら、加入している医療保険に確かめてみてください。

Q. 医療費控除とは、何が違うのですか?

A. 別の制度です。高額療養費は、医療保険から「上限を超えた分のお金が戻ってくる」しくみです。いっぽう医療費控除は、確定申告をすると所得税や住民税の計算のもとになる所得が減る、税金のしくみです。高額療養費で戻った分は、医療費控除の対象からは差し引いて計算します。

Q. がんの治療が長く続きそうです。ずっと上限額を払い続けるのですか?

A. 長く続く場合は、さらに軽くなります。過去12か月以内に3回以上上限額に達すると、4回目からは「多数回該当」となり、たとえば年収約370万〜770万円の方の上限は44,400円に下がります。2026年8月からは、これに加えて年単位の上限額も新設されます。また、人工透析など一部の治療には、上限が原則月1万円になる特例もあります。

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